堕威君の唇は可愛い。
何かぷっくりしとるし、柔らかそう。
まるで女の子の唇。顔は俺より男らしいくせに…

「何か付いてる?俺?」

流石に周りにあまり注意を払わない堕威君でも、あんまり俺が凝視していたせいで視線に気が付いた様だ。
早口で訊ねてきた。

「いや、堕威君の唇」
「俺の唇?」
堕威君は眉間に少し皺を寄せて、右手で下唇に触れた。
ぷくっとした唇が少し沈んだ。

「可愛いな〜と思って」

「はぁ?」

意表をつかれた堕威君は、更に眉間に皺を寄せ、ぱっと顔を赤くした。
「な。なななな、何言っとるん、薫君」
顔をぷるぷる振りながら、慌てた様子で堕威君は言ってきた。
「何かこー…ぷくっとして、触りたく…キスしたぁくなんねん」
俺がそう告げると、堕威君の顔の色は髪の色の赤い色にますます近付き、見られない様にか、両手で口元を隠した。
「ななななな何言っ…や…あ…ああああアホ!一体何やねん薫君…!」

「確かに…堕威君の唇、ピンク色だし…ぷにってしてるし…美味しそうだよね…」
「な!敏弥まで何言ってんねん!やめて!」
「堕威君、チューしよっかぁ?」
「ば、ばか敏弥!」

赤から青に顔色が変わりつつある堕威君に、敏弥が近づく。
何たってベースの弦を素手で切る剛腕の持ち主・敏弥なので、華奢でほっそい腕の堕威君は逃げる術が無い。
両腕を掴まれた堕威君は、目を潤ませて、物凄い勢いで仰け反った姿勢をとっている。

「ん〜〜〜」

むなしい抵抗を続ける堕威君の唇に、今にも敏弥の唇が…

突然、敏弥が宙に浮いた。

急に押さえていたものが無くなったので、堕威君はその場に勢いよく尻餅と頭をついた。
「ぐえっ」
そのまま動かなくなった。

ドカン!
敏弥が重力に負けて、積み重なっていた段ボール箱に突っ込んだ。
「ギャ…」
こちらも動かなくなった。

堕威君の横に突っ立ってたのは…心夜だった。
その細すぎな身体の何処にそんな力があるのか全く判らないのだが…倒れる堕威君を…お姫様抱っこして…
構図が変なんだが…
こっちに視線を移した。

何かよく判らないが、気迫のこもった視線…
い、いや、俺は何もしていない、両手を上げて、白旗を出した。

「堕威君に手ェ出したら…許さん」

そう告げると、心夜は堕威君を抱えたまま、ドアの向こうに消えていった。