「……あ…」
必死に声を出すまいと抵抗していた心夜だったが、結局は快楽に負けて声がもれる。

その声が。
その表情が。
こちらの気持ちを高ぶらせる。
もっと…快楽に溺れた顔が見たい。

俺達は今、倉庫みたいな所に居た。
…普段居る事務所じゃないから、よくは判らない。
メンバー全員のインタビュー。俺と心夜は…3人より早く終わった。

たまたま、帰ろうとしていた心夜を見かけて。
心夜、って声掛けて。
…何でやろ、急に心夜が…抱きたくなって。
心夜の格好が、普段よりも色っぽく見えたから?

…いや、多分違う。刺激が欲しかった。
ただ何となく仕事してる日々に。
つかず離れずの俺達の関係に。

何となく始まった俺達の関係。
じゃれたり、キスしたり、身体を重ねたり。
どう見たって恋人同士。

けど…本当に俺達好き合ってんか正直判らないままで。

最初はそれでもいいと思ってた。
きっとこの関係は気紛れなんだと、そう言い聞かせていた。
けど…本当は好きだって、好きなんだって気が付いた。
こいつのちょっとした仕草、表情。
堪らなく愛おしい事に、ふっと気が付いてしまった。

…外だろうが関係無い。
想いが溢れて止まらなくなった。

突然俺が会話を止めたせいで、心夜は少し怪訝な顔をした。
俺は強く心夜に唇を重ね、
俺達はそのまま近くの部屋…倉庫みたいな所にになだれ込んでいた。

いつもは見せない姿が目の前にあった。
ショックを隠しきれない顔。
少しゆらめく瞳。
抵抗する表情。
けれども、今はもうその姿は薄れていき、徐々に妖艶な姿を現し始めていた。

抵抗する気持ちと、
快楽に身を任せたい気持ち。
その二つがせめぎあって、身をよじり、声を出すまいとする心夜。
…滅茶苦茶にしてしまいたい。
俺は少しだけ口元を歪めた。

唇を塞ぐと同時に、心夜の敏感な所を弄んだ。
心夜の身体がびくっと大きく脈打つ。
大きく溢れそうになる喘ぎ声を防ぐ様に、俺は舌を絡めた。
さっき唇を重ねた時よりも、俺達の舌は激しく絡み合った。

「だ…いく…ん…っ」
かすれた甘い声が、絡み合った舌の隙間から響く。
力を失った腕が、俺の首元を撫でた。

唇を放す。
俺は何も言わず、心夜の瞳を見つめた。
潤み、焦点の定まらないその瞳。
小刻みに震える身体。
何かを言いたくて言い出せない口が、小さく開閉していた。

「…どうしたい?」
俺は微かに微笑んで尋ねた。
いつもは見せない心夜の動揺する表情が、とにかく可愛かった。

少しして、諦めた表情を一瞬浮かべ、目を反らして…だいて…と、小さく呟いた。

パンと何かが切れた感覚。
俺は貪る様に、心夜の身体を掴み、俺のを突き付けた。
心夜の身体が強ばったが、強く抱きしめて自分の体温を伝えると、段々と緊張は解れていった。
そして…徐々に心夜の中に入り込む。
段々と仰け反る心夜の身体。声無き声が溢れ、宙を舞った。

繋がる…俺達の身体。
何度も重ね合った筈なのに、何故か新しい感覚が、俺の身体を突き抜けた。
何処かが麻痺する感覚。
到底言葉では言い表せぬ至福の痺れ。
もっと満たされたくて、
もっと滅茶苦茶にしてやりたくて、
もっと…愛し合いたくて。
俺達はお互いを貪り合った。

心夜の瞳は既に逃げる表情は灯っておらず、
ただただこの行為に溺れたいと願う、
少し狂気とも似た光が宿っていた。

「あ……はっ…」
口から零れ落ちる、歓喜の音色。
初めて目にする快楽に酔った表情。
心夜を押し留めるものは何もなく、
溶け合ってゆらゆらゆらめく世界にひたすら浸かっていた。

…快楽に狂い、倒れそうな時。
一体どの位俺達はお互いを求め合っていたのだろう。
どれだけ感じ、
どれだけ喘ぎ、
どれだけ一つになり。
何度も何度も、心夜の中に俺は注ぎ込んだ。
その度に心夜は普段は出さぬ声をあげ、身体を波立てた。

「か…はっ……」
滴を垂らしながら、心夜の口から小さな声が紡がれた。
ぱさ、髪が床に当たり、音がした。
心夜はゆっくりと床に身を落とした。
行為の余韻はまだ消えず、肩で息をしながら、時折びくっと身体を揺らした。

心夜の顔にかかる髪をのけて、唇を重ねた。
少し湿った、ひんやりした唇。
でもとても柔らかで心地好い感触。
少し、心夜の身体の揺れが穏やかになった。
目が合って。
どちらが先とも知れず、お互い微笑んだ。
何も言わずとも、お互い何を考えているかは判った。
君が好きと。

落ち着いたのだろうか、床に転がったまま、心夜は寝息を立て始めた。

…誰か来たらどうしよう…
今更な事が脳裏をよぎったが、まぁ…なるようになるやろ。
俺はすぐに思い直し、無造作に投げてあった服から煙草を取り出し火を付けた。

起きたらな、何か二人で食べにでも行こうか?
丁度皆にも会うかも知れへんけど、ま、いっか。
その時はその時やな。
俺はそんな事を考えて、静かに寝息を立てている心夜の小さな手を、軽く握った。